インタビュー


特別対談:たたきあげの生まれる場所

 

いわき市平の復興飲食店街「夜明け市場」に誕生したコワーキングスペースは、創業のための「タタキアゲの精神」や「タタキアゲのノウハウ」をシェアし、入居者同士がコラボレーションしたり、切磋琢磨するための場。その理念は、多くの人たちが関わった設計や建築の過程にも貫かれている。この場所はどう生まれ、どう育っていくのか。設計に携わった2人のキーパーソン、畑克敏さんと高田祐一さんをお迎えし、話を伺った。

 

対談参加者(写真右から)

高田 祐一さん:株式会社コスモスモア  CSR推進室マネージャー

畑 克敏さん:東洋大学理工学部建築学科設計支援員

松本 丈:NPO法人 TATAKIAGE Japan 理事長

鈴木 賢治:NPO法人 TATAKIAGE Japan 理事長



鈴木:半年近くの工事を経て、ようやくスペースが完成しました。畑さんには設計と内装デザイン、そして高田さんにはプロジェクトのマネジメントで支援を頂きました。ほんとうにありがとうございました。改めて、お披露目を迎えた今のお気持ちを聞かせて頂けますか?


:まずはこの日を迎えることができて安心しました。安心したのと同時に、「これは自分の作品だ」という気持ちは薄くて、逆に「みんなのものができた」という気持ちが強いですね。


高田:私は素直にかっこいいと思いました。内装のデザインも設計も、入った瞬間に「お、かっこいいな」って。そういう感覚を、この場所を使ってくれるユーザーの方々にも感じてもらいたいです


:ギリギリまで席の数が決まらなかったり、予算も厳しかったですし、家具もない中でIKEAの協賛が急遽決まったりと、本当にいろいろな動きがありましたよね。それだけに、やっぱり感慨深いものがあります。


松本:途中でお金がなくなって一度止まってみたりとか、いきあたりばったりでしたね。IKEAさんの協賛をはじめ、皆さんの支援がなかったら、こんなにいい空間にはならなかったと思います。


:家具が足りないときには「町中から椅子をもらってきたらどうですか?」って提案したこともありましたね(笑)。椅子の背中のところに「中華料理○○」とか社名を入れよう、みたいな。左官をみんなでできたことも、ほんとうによかったと思います。そういう経験があっただけに、「みんなで作った場所」という気持ちが強いのかもしれません。

 

笑顔でこれまでを振り返る畑さん(左)、高田さん(右)
笑顔でこれまでを振り返る畑さん(左)、高田さん(右)


松本:初めて高田さんと会ったのが2012年の11月。コスモスモアのCSR推進室で東北三県を回られていたときに「夜明け市場」にいらっしゃって、「ご一緒できることはありますか?」と言って下さった。そこで高田さんにぼくたちの考えを引き出してもらって、やりたかったことに気づくことができたんです。それが出発点でした。


鈴木:全部自分たちでやろうとしてした時期だったので、プロジェクトのマネジメントを高田さんにして頂けたのはほんとうに幸運でした。時間も予算もない中で、高田さんにはご心配ばかりかけてしまいましたね。


高田:でも、そこで東京にあるものを持ち込んでくるのは簡単なんです。そうではなくて、あくまで現地の皆さんの気持ちが大事。ぼくたちは「スキル提供」だけをしようと決めていました。現場の人たちの思いがあってこその、この「場」だと思いますよ。


:私自身も、とてもいい経験になりました。もともと田舎の出身で、大学や今の事務所での経験を、また田舎に還元したいと思っているんです。今回のプロジェクトに参加させてもらったのも、「いずれ田舎に帰ったときにプラスになりそうだ」というポイントが大きかったような気がします。

 

工事前の様子。内装も崩れ、スペースとして使えるような状況ではなかった。
工事前の様子。内装も崩れ、スペースとして使えるような状況ではなかった。
作業をするのは地元の職人たち。その思いをどれだけ引き出せるか。畑さんはそこに力を注いだ。
作業をするのは地元の職人たち。その思いをどれだけ引き出せるか。畑さんはそこに力を注いだ。
左官ワークショップでは、参加者全員でコワーキングスペースの壁を仕上げた。
左官ワークショップでは、参加者全員でコワーキングスペースの壁を仕上げた。


松本:実は、高田さんからは、畑さんを含めて3人の若手建築家を紹介して頂いたんですが、「今回の場づくりが、いわきだけではなく他の地域でも役に立つ」ということを一番感じられたのが畑さんだったんです。その畑さんに「いい経験になった」と言って頂けて感激です。


:こういう「場」づくりというのは、席の数や利用者の想定年齢とか、さまざまな数字を図面に落とし込んで行われるんですが、今回はそれがほとんどなかった。いわきをよくしたいんだっていう熱い思いしかない。そこで、「現地にいる人にしかできない場」を作ろうと思考転換していったんです。最初は、どちらかというと「東京の感覚を持っていって作る」と言う傲慢な考えがあったかもしれない。でも、それが間違いだと気づいたんです。

 

鈴木:そうだったんですね。

 

:職人さんたちに「ここは俺が作った!」と言って欲しいし、どうやったらその言葉を引き出せるのかをずっと考えていました。左官をみんなでやったのもよかったですね。東京では、こういう進め方がクレームになったりするのですが、それも寛容に受け取って頂けて、この場を象徴するようなイベントになりました。


松本:畑さん自身が、このコワーキングスペースを設計しながら「タタキアゲ」の経験を積むことができたのだとすれば、この場所の理念とも合致します。これほどうれしいことはありません。


TATAKIAGE Japanの鈴木(左)と松本(右)。2人の強い思いもまた、このスペースに込められている。
TATAKIAGE Japanの鈴木(左)と松本(右)。2人の強い思いもまた、このスペースに込められている。
東北復興、日本再生への熱意が、この場所には生まれている。
東北復興、日本再生への熱意が、この場所には生まれている。
記念撮影。この場所では、さまざまな思いが列車のように繋がり、日本再生と言う目的地へと進んでいく。
記念撮影。この場所では、さまざまな思いが列車のように繋がり、日本再生と言う目的地へと進んでいく。

 

:材料にしても施工にしても工法にしても、この場では「開いていく」ことが大事だと考えていました。実は、こういう開き方は、同世代の建築家も見てはいるところではあるのですが、実際には、なかなか経験することができません。その意味で、とても貴重な経験を積むことができました。


鈴木:ぼくたちも、場づくりのマネジメントを含め、いろいろなノウハウを積むことができた。今度はそれをみんなで出し合い、思いをシェアすることで、それぞれの創業を「タタキアゲ」ていけるような場所にしていきたいと思います。


高田:東京など都市部のコワーキングスペースと違って、東北三県などに生まれているスペースは、集会場なのか育成施設なのかよくわからないところに面白さがあると思います。その場が、点から発信して地域に広がり、面になっていくことに期待をしています。


松本:完成はしましたが、今度は「中身」を作っていかなければならない。ここでいろいろなコラボが生まれてほしいですし、そのためのイベントをどんどん企画しながら、起業家が生まれる種を作って、その種を地域にどんどん蒔いていきたいと思っています。


高田:様々な問題に直面しながら、現地で場を運営する皆さんの言葉というのは、東京の企業に勤める私たちにとって、とても貴重なものです。だからこれからも関わせて頂きたいと思っていますし、それが県外や海外にも、広がっていけばいいですね。


:その広がりは、やっぱり人を介して広がっていくものです。突然、ふと、繋がったりする。ぼく自身は、ここに頻繁には来れないかもしれないけど、「畑が関わった場所がいわきにあるらしい」というところから、まずは私の周りで「いわき」というワードが増えていってくれればと思います。


松本:ありがとうございます。お二人の言葉を頂いて、改めて、人と人を繋ぐ「思い」を大事しながら、「タタキアゲ」の起業家精神を育んでいく場を作っていきたいと思いを新たにしました。これからもよろしくお願い致します。

 

高田:よろしくおねがいします。

 
聞き手・構成
小松 理虔(TETOTEONAHAMA)